海外短信 No.706 2025年7月
No.706 2025年7月
海外の冷凍空調関連の気になるNEWSをピックアップし、掲載していきます。
1.日本のエコキュートの出荷台数が1000万台を突破
日本のCO2ヒートポンプ給湯器「エコキュート」が、発売から24年で1,000万台の販売を達成しました。この統計は、日本冷凍空調工業会(JRAIA)が2025年3月時点での国内出荷台数を基に発表したものです。エコキュートは2001年にコロナ社によって初めて発売され、その後、ダイキン、パナソニック、日立、三菱電機といった日本の大手メーカーに加え、サムスンやハイアールといった企業も導入してきました。
この技術の背景には、1995年から始まった電力中央研究所と東京電力の共同研究があります。日本では家庭用給湯が総エネルギー消費の約34%を占めており、当時の給湯消費量は西欧と比べて非常に高いものでした。そのため、従来の給湯エネルギー需要を削減することが求められました。この取り組みは政府により、エコキュートのCO2ヒートポンプ技術が京都議定書に基づくCO2削減プログラムに組み込まれることになりました。
Japanese EcoCute shipments pass 10 million
Cooling post 2025年4月
2.PFAS禁止は法的障壁を乗り越えなければならない
PFAS禁止に関する法的障壁が議論されています。2023年にドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマークが欧州空調管理局(ECHA)に提出した提案は、ほぼすべてのHFCやHFO冷媒、および多くの冷凍部品に使用されるフッ素系ポリマーの禁止を求めています。この提案は、ECHAのリスク評価委員会(RAC)によって支持されていますが、社会経済分析委員会(SEAC)の意見は年末までに出ない見込みで、全体の意思決定が完了するのは2028年になるとされています。 この提案に対し、法律事務所Fieldfisherが指摘しているのは、執行可能性や法的確実性に関する根本的な問題です。
弁護士のグラッシ氏は、提案には化学物質識別子が記載されておらず、数千種類のPFAS物質のリスクを均一に想定していると批判しています。また、PFOAやPFOSといった既知の物質に基づく外挿に依存する有害性評価の妥当性にも疑問が呈されています。 さらに、Fieldfisherは、提案の法的根拠が主に残留性に基づいているため、同時毒性や移動性が十分に示されておらず、司法審査には耐えられないかもしれないと警告しています。この提案は、既存の規制との重複リスクもあり、適用範囲が広すぎるため、法的強固さが欠けているとの意見もあります。
グラッシ氏は、適用除外のプロセスが不透明であり、一部のセクターは一時的な適用除外を受ける一方、他のセクターは明確な根拠なしに除外されていることを指摘しています。これらの欠陥が積み重なり、提案がバランスの取れた法的成果をもたらす可能性が低いとされています。加えて、REACH規則の改訂によって、PFASに関する規制上の不確実性がさらに増大する恐れもあります。 以上のように、PFAS禁止に向けた規制案は現在進行中であり、その実現可能性にはさまざまな法的課題が存在すると言えます。
PFAS ban must overcome legal obstacles
Cooling post 2025年5月
3.米国メーカーはR290の導入を加速
アメリカの温度制御機器メーカーPolyScienceによると、同国ではR290(プロパン)冷媒の採用が加速しています。EPA(米国環境保護庁)は、低GWP冷媒への移行を促進するため、メーカーに対して助成やガイダンスを提供してきました。PolyScienceは、すべての製品ラインで自然冷媒への移行を発表しました。
R290は低GWP、高エネルギー効率、オゾン層破壊なしという利点があり、多くの業界で注目されていますが、可燃性のため安全対策も必須。PolyScienceでは製造ラインの刷新や従業員教育など安全文化の強化を進めています。
同社はISO 14001を遵守し、冷却業界のグリーン転換をリードする存在となることを目指しています。
American manufacturers are embracing R290, says PolyScience
RAC 2025年2月
4.住宅向けヒートポンプ設置規制の緩和に業界が反応
政府の「Warm Homes Plan」に基づき、イングランドでは空気熱源ヒートポンプの設置に関する建築規制(許可要件)が緩和されました。これにより、隣接地境界から1メートル以内に複数の大型ユニットを許可不要で設置できるようになり、家庭の低炭素暖房導入が加速すると期待されています。
VaillantやWorcester Boschなどの大手メーカーは、これにより設置の障壁が下がり、ヒートポンプ普及が進むと歓迎の意を示しています。特に従来の「1メートル規制」は、現代の静音機器には合わず、25%の案件が非対応であったと指摘されています。イギリスでは年間60万台のヒートポンプ導入を2028年目標とし、政府はBoiler Upgrade Scheme(BUS)の強化や低所得層への支援、価格格差(スパークギャップ)の是正も検討中です。
Industry reacts to relaxed rules for heat pump installations
RAC 2025年5月
5.R454Bの供給不足、米国の今夏の空調シーズンに暗雲
米国では、AIM法によるHFC冷媒のGWP規制強化で、従来のR410Aが使用不可となり、低GWPのR454B冷媒の需要が急増しています。しかし、R454Bは軽度可燃性のため、施工には追加の安全対策が必要で手間とコストが増大します。
さらに、3月以降、対応ガスシリンダー不足で供給が混乱し、納品遅延が発生しています。加えて、ハネウェルが42%の価格上昇を通知し、原材料費や関税の影響が拡大中。こうした問題で今夏の空調シーズンの供給に懸念がありますが、業界は環境性能を活かした製品展開に前向きに取り組んでいます。
R454B Shortage Casts Shadow over Upcoming AC Season in the U.S.
JARN 2025年5月
6.トランプ関税、中国のエアコン輸出に影響
2025年に発足した第2次トランプ政権による新たな関税政策により、中国の米国向けエアコン輸出が大きな打撃を受けています。これに先立ち、大手中国メーカーは2024年末から米国に大量出荷し、現地在庫を確保するなどの対策を講じており、夏季の需要対応に成功しました。
一方、小規模OEMブランドは在庫管理体制が不十分なため対応に苦戦しています。中国メーカーは高関税を回避するため、東南アジア経由の輸出やFOB方式を活用。また、米国以外への輸出先として、東南アジアや欧州、中東、アフリカ、南米などに市場を広げ、戦略的拠点の整備を進めています。
中国製品の価格競争力は低下しているものの、米国向け輸出は全体の6%に過ぎず、多くのメーカーは海外生産拠点の再編により柔軟に対応しています。今後も米中の貿易摩擦が業界全体に影響を及ぼすと見られます。
Trump’s New Tariffs Impact Chinese AC Exports
JARN 2025年4月
以上
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