欧州エネルギー価格は上昇するが、ヒートポンプ暖房給湯機(ATW)の需要は増加 ~海外短信クローズアップ
No.685 2022年7月
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2021年、欧州のヒートポンプ暖房給湯機(ATW)の需要は、2020年と比較して約40%増加したとJARNは推定している。エネルギー効率の高さや再生可能エネルギーの使用などの利点により、ATWは化石燃料から移行するカーボンニュートラルの方針に沿ったものとして高く評価され、補助金の対象ともなっている。欧州のATW市場は、エネルギー価格が上昇しているにもかかわらず、2022年に極めて有望な市場となっている。
欧州ATW販売台数と天然ガス価格の推移
■上昇するエネルギー価格
欧州の天然ガスの価格は徐々に上がっていたが、2021年の後半に急激な上昇を始めた。世界銀行の報告書2021年「一次産品市場の見通し」によると、欧州は天然ガスの在庫を減らしており、これはロシアからの供給が制約されたこととアジアとの輸入競争に起因している。これが天然ガスの価格を押し上げている。2月末に勃発したウクライナ侵攻によりロシアからの輸入が崩壊する恐れを反映して、価格は2022年上昇を続けている。実際3月には欧州の天然ガスの価格は過去最高を記録し、2022年を通じて2021年の価格レベルの2倍を超えるものと予測されている。石炭価格もまた2021年と比較して平均80%以上高くなる見込みとなっている。
■電気料金の高騰
天然ガスと石炭価格の上昇により欧州各国の電気料金が高騰した。
イタリアでは、エネルギーネットワーク及び環境規制機関ARERAが2022年2月14日に公表した報告書によると、2022年の第1四半期に電気料金は前年同期比で1キロワット時(kWh)当たり税込みで20.06ユーロセント(約28.3円)から46.03ユーロセント(約65.0円)へと131%上昇した。天然ガスは前年同期比で1立方メートル(㎥)当たり70.66ユーロセント(約99.7円)から137.32ユーロセント(約193.8円)へと94%値上がりした。しかし2022年第2四半期では、電気を年間2,700kWh、ガスを1,400㎥消費する一般的な家庭で、電気料金は前年同期比で10.2%下がり、ガス料金も20%下がるものとARERAは予測している。これは料金から一般経費を除去し、またガスに対する付加価値税(VAT)を軽減するという政府の方針によるものである。
英国では2022年4月、エネルギー価格の上限が54%引き上げられ、2022年10月には更に30%から50%上がるものと予測されている。4月の増加分は、電気ガス料金を口座引き落としによって支払う一般的な家庭では、700ポンド(約11万6千円)に相当する。政府は2022年4月、料金の高騰を受けて家計を助けるために住居財産にかかるカウンシルタックスを150ポンド(約2万5千円)払い戻すことを発表した。これは家庭の約80%が対象となる。2022年10月には200ポンド(約3万3千円)の割引がされるが、これは今後5年間にわたってエネルギー料金として消費者は支払わなければならない。
■ATWに対する補助金
実際今年、欧州のいくつかの国の政府はATWヒートポンプに対する補助金の方針を強化してきている。
欧州で最大のATWヒートポンプの市場であるフランスでは、政府がリノベーション補助金の額を1,000ユーロ(約14万1千円)増額した。2022年4月15日から12月31日まで、化石燃料を使用した暖房システムをATWヒートポンプのような再生可能システムに変更した場合、どのような変更であっても対象となっている。
英国では政府が2022年4月1日、ボイラ・アップグレード・スキーム(BUS)を始めた。これは住宅にて、またイングランドとウエールズでは非住宅ビルの一部にATWヒートポンプを設置した場合、最大5,000ポンド(約82万8千円)が補助される。
イタリアでは政府が5月4日、スーパーボーナス110ヒートポンプ・インセンティーブの延長を発表した。スーパーボーナス110はヒートポンプの設置に対して110%の税控除を行うもので、2021年にATWヒートポンプの設置に大きな貢献をしたものである。
■将来の見通し
ATWヒートポンプは欧州のみならず世界でも今後成長が期待される。エネルギー効率が高いためATWヒートポンプは炭素中立社会を創造する技術となっている。実際、国際エネルギー機関(IEA)が2022年3月に発表した‘石油消費削減のための10項目計画’ではヒートポンプの採用加速は今後数年間で石油需要を減少させるために必要な手段であると提唱している。
しかしATWヒートポンプに使用されている要素部品の不足が懸念材料となっている。それは半導体、ファン、及びポンプなどを含んでいる。原因はコンテナの不足及び新型コロナウイルスが再び感染拡大したことによる中国の生産性の低下である。これらの問題は更に悪化し、長期的に長引くことが予想される。
〔出典 JARN May 25, 2022〕
■2022年5月号(No.683)はこちら
■2022年3月号(No.682)はこちら
■2021年11月号(No.680)はこちら
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