2021年度 省エネ大賞
資源エネルギー庁長官賞
東芝キヤリア株式会社

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No.682 2022年3月

製品・ビジネスモデル部門
空冷ヒートポンプ式熱源機「EDGE32シリーズ」

1. はじめに
近年、温室効果ガス排出量抑制のため、空調機器用冷媒の低GWP(地球温暖化係数)化の推進が加速している。当社においても、モジュール型ヒートポンプ式熱源機用冷媒の低GWP化が課題であった。この課題に対し、低GWP冷媒であるR32を採用した高効率熱源機「ユニバーサルスマートX EDGE32シリーズ」を開発した。

一方で、熱源機器本体の高効率化はもとより、熱源システム全体で考えた場合の省エネ化の実現は当社として長期にわたる目標であった。また、熱源システムの最適化を実施するにあたり、煩雑な計装システム設計や施工工程も課題の一つとなっていた。そこで、負荷側を含めた熱源・空調システム全体の状態把握と制御を容易に構築するとともに、負荷側空調機器との協調制御により熱源システム全体の更なる最適化・省エネ化の推進を目的とした新たなコントローラー「HVAC(ヒーバック)モジュールキット」を開発した。

更に、熱源システムの最適化・省エネ化にとどまらず、お客様のニーズに合わせた新たな管理コスト低減、付加価値向上に繋がる様々な新しいサービス提供を実現するため、従来から対応している遠隔からの運転状況監視システムを刷新し、遠隔管理クラウドシステム「TCCR-NETTM」(Toshiba Carrier Comfortable Remote access NETwork system)として2020年10月より運用を開始した。


2. 製品の技術的特徴
2-1.ヒートポンプ式熱源機
従来のヒートポンプ式熱源機に採用されている冷媒R410AはGWP値が2,090(注1)であり、ヒートポンプ式熱源機「ユニバーサルスマートX EDGE32シリーズ」では、R410Aの代替となる低GWP冷媒として、空調機で汎用性の高いR32(GWP値675(注1))を採用した。冷媒R32は、圧力損失がR410Aに対して少ないことから機器効率は向上する一方で、圧縮機出口温度が高温になるという特徴を有している。ヒートポンプ式熱源機の場合、空調機に対して加熱運転時の凝縮圧力が高圧になり圧縮出口温度も高温化する傾向にある。このため圧縮機構成部品の高温化に対する信頼性を確保するための技術開発が必要となった。この課題に対して、液インジェクション機構を搭載したR32用の圧縮機を今回新たに開発している。液インジェクション機構は、冷凍サイクル中を流動する冷媒の一部を圧縮機内の摺動部に噴霧することで強制的に圧縮機を冷却する機構である(図1)。




図1. ヒートポンプ式熱源機「ユニバーサルスマートX EDGE32シリーズ」

外観と圧縮機



2-2.HVACモジュールキット
  
当社の熱源機は従来、グループコントローラー(GC)による最大8台のモジュールコントローラー(MC)制御により、最大16台のユニットコントローラー(UC)を制御することで、最大128台の熱源機の制御を可能としていた。今回開発したHVACモジュールキット(図2)は、GCと接続される新たに開発されたエリアコントローラーと、エリアコントローラーに接続されるエアハンコントローラーの2種類から構成される。各コントローラーは負荷側計測機器類(温湿度センサー、圧力センサー、CO2センサー)及びエアハン等の負荷側制御機器のバルブ、ファン等のアクチュエーターの入出力ポートを備えており、煩雑な計装システム設計・施工工程を省略しながらも、自由度の高い熱源システムによる省エネ運用を顧客に提供することを可能としている。

エリアコントローラーは、エアハンコントローラーを2エリアに振分け、エリア別に発停、運転モード、設定値等を管理する機能を有しており、エアハンコントローラーと共に負荷側計測値をベースに、外気導入量制御、負荷側機器変風量制御等を行うことができる。また、熱源機側では負荷側の運転状況に合わせ最適水温制御、熱源機変流量制御を行うことができる。各制御の概要とその効果を図3に示す。

HVACモジュールキットの機能の1つに負荷側バルブ開度検知制御がある。これは空調機バルブ開度の動きを把握することで高めの開度を維持し、熱源機のポンプ消費電力量の削減を図るものである。負荷側バルブ開度検知制御を想定した場合、一般的な定圧定流量制御に対して78%、当社従来機種標準搭載している推定末端差圧制御に対しても51%の消費電力低減が可能である。

図2.「HVACモジュールキット」システム概要




図3.「HVACモジュールキット」機能と効果



開発機に「HVAC モジュールキット」を接続し、負荷側バルブ開度検知制御を想定した際のランニングコスト試算値を、当社従来機(流量は定圧定流量制御を想定)と比較した結果を図4に示す。開発機の高効率化と負荷側バルブ開度制御の効果により大幅な省エネを実現し、ランニングコストは当社従来機に対しておよそ8%の低減が可能となる。




図4.ランニングコスト試算結果



2-3. TCCR-NETTM
今回開発したTCCR-NETTM(図5)では、製品の運転状態の見える化や各種センサーデータを蓄積・分析することで、これまでの遠隔サービス機能である24時間遠隔モニタリングに加え、省エネ診断・チューニングサービス、WEBによる運転状況分析や負荷需要予測、故障予知・異常診断など新たな機能を追加した。今後もお客様のニーズに合わせた新メニューを順次展開、強化し、新付加価値提供サービスによる省エネ性向上、快適性向上、生産性向上や製品品質の安定化、省人・省力化に貢献していく。

ここで、製品への搭載予定である新付加価値サービスの一つ「冷媒漏えい検知機能」について紹介する。熱源機からの冷媒漏えいは、運転中の冷凍サイクル状態からアクチュエーターの動作特性をDeep Learningモデルにより予測し、予測値と運転中の動作との相違から検知を行う(図6)。冷媒の漏えいは、冷媒の大気放出による地球温暖化へ悪影響を及ぼすのみならず、熱源機自体の機器効率も低下させる為、早期に発見することが熱源システムの省エネ運用にも繋がる。




図5「TCCR-NETTM」概要




図6冷媒漏えい検知Deep Learningモデルイメージ



3.おわりに
「ユニバーサルスマートX EDGE32シリーズ」及び、EDGE32シリーズと接続が可能な「HVACモジュールキット」、「TCCR-NETTM」を開発した。これにより環境負荷低減に加え、業界トップクラスの高効率運転を達成するとともに、熱源システム全体の高効率化の実現ならびにユーザーの運転管理段階での省エネ、快適、生産性、設備管理等の向上を目指した遠隔管理クラウドシステムの提供を可能とした。当社は、今後も更なる環境負荷低減と高性能化を目指すヒートポンプソリューションカンパニーとして、社会及び地球環境の保全に貢献していく。

(注1)IPCC第4次評価報告書(100年値)に基づく


以上

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