海外短信クローズアップ
No.665 2019年10月
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欧州 横行するHFC不法輸入の実態
英国EIAが調査をもとに欧州各国に監視体制の強化を勧告
英国の環境調査機関(EIA)の新しいレポート“ドアは広く開いている:欧州で盛んなHFCの不法輸入”によると、欧州は現在、不法なHFCの流入に苦しんでいる。流れを変えるために必要な行政措置や監視体制の強化を、当局は行なっていない。
レポートによるとEIAは各国の冷凍空調産業を調査し、彼らの報告と公式なF-ガスおよび税関のデータとを突き合わせた。その結果、EIAは実際の不法輸入の量について、最も包括的な姿を把握することができた。各国および欧州の双方とも当局は一貫した強制力を持っていないことが明らかになった。
バスや釣り船などあらゆる輸送手段を用いて密輸が行われている
■調査結果:不法輸入により許容枠を上回るHFC使用の実態
問題解決の要請を受けて2018年末にEIAは2つの調査を行った。一つはEUメンバー各国がF-ガス規制を遵守するために行っている努力の状況であり、もう一つは重要な産業の関係者からデータを入手し、チェックすることであった。
調査して判明したことは、これまで規則違反には慣れていた産業団体でさえも驚くほどの不法輸入量の多さであった。欧州の税関のデータをEIAが分析した結果、CO2換算で16百万トンほどの差異が見つかった。(2018年にF-ガス規制での使用許容量101百万トンに対して市場で消費された推定量117百万トン) “産業団体の報告では大規模な不法HFCの流入と使用が行われている。各国による効果的な対応がなされていない。調査した企業の80%以上で不法HFCの疑いを認識しており、72%が不法な使い捨てボンベでの冷媒を見たり、購入を勧められたことがある” とのことであった。
16百万トンという数値は “HFCの密輸が取り締まられていない状況(例えばF-ガス規制の下で、許容枠の無い状況であっても堂々と船で輸入している)”とレポートの著者は述べている。しかしこれは問題の初めでしかない。これらに加えて、税関を通さずに国境を超えてくるHFCの密輸もある程度の量がある。中国が輸出したとする量と欧州が輸入したとする量の間には大きな差異があり、これは不正な輸入の存在を示すものとなる。
EIAによる税関のデータの分析では、F-ガス規制の下で各企業が報告している量を超えて、2017年にはCO2換算でさらに15百万トン(2017年のF-ガス規制での登録量104百万トンに対し税関を通過した量は119百万トン)が輸入されたことになっている。
■不法輸入を可能とする不十分な取り締まり
現行の報告および監視体制およびこれらの実行力が十分ではないことは明らかであると著者は強調している。欧州の税関データとHFC登録簿データとの大きな差異は、企業、国、およびEUのレベルでさらに調査してみる必要がある。EUの域外で安価なHFCを入手できるとすれば、EU域外と接する国々でHFCの不法輸入の大部分が報告されたとしても驚くことにはならない。現行のHFC報告システムでは、税関当局にHFCの通関量が許容枠に入っているのか否かを判断することができない。システムでのいくつかの抜け穴を利用して悪徳業者は、罰則のリスクがほとんどない安価なHFC市場に付け込んで、手っ取り早く利益を稼いでいる。
■不法輸入のもたらすもの
著者はこのような不法輸入はF-ガス規制を破壊するだけでなく、複数の好ましくない結果をもたらすことを強調している。「違法輸入はF-ガス規制を台無しにする。HFCの排出が増加し地球温暖化を早める。政府の収入や規制ビジネスの利益は減少する。HFCの削減スケジュールの外でHFCがいつまでも入手可能ということになると、気候変動に対応した技術に対する理解を妨害し、最終的にF-ガス規制の成功や欧州の気候変動のゴールへの到達を難しくする」
■さまざまな不法輸入の手口
レポートは法の網を逃れる無節操なやり方を広く示している。無人のミニバスに容器を積載することから、輸送に釣り船を利用するなど。船舶ごとEU域外への輸出と見せかけて方向を転換してEUへ戻す例もある。
著者は、産業界から報告されている大型タンカーを用いてのリスクについて警告している。「EIAの経験によると、このような大型船舶はほとんどチェックされない。チェックするプロセスについて慣れていないことや、冷媒を検査する設備も備ええていない。産業界の内部では、税関は輸入業者がHFC規制に登録されている場合のみチェックする。しかし許可された枠の中で有るのか否かについては確認しない。また機器の輸入に際しても適合性書類の提示を求めることは常にやるわけではない。税関の担当官がどれだけの許可枠がこれまで既に消費されてしまったのか、判断するすべを持たない。システムは悪用に扉を大きく開けている。
インターネットも不法販売では盛んに使われている。オンラインのプラットフォームは不法なHFCを販売するポピュラーなやり方だ。販売者はF-ガス販売のライセンスが無くとも、潜在的購入者の広範なネットワークを手にすることができる。
■EIAによる勧告
産業界と国の担当官は取り締まる努力をすべきであるが、問題の範囲は広く、担当官が課すことのできる罰則は比較的軽い。このため悪戦苦闘しているのが実態である。
EIAはこれらの調査結果を踏まえてレポートではEU委員会および各国に次のような一連の勧告をおこなっている。
・船荷ごとにHFC輸入の許可を与えるシステムを実行する
・輸出先の国と協働してHFC貿易の報告と監視を改善する方策を見出す
・HFC登録簿をより見やすいものにする
・HFCの許容枠を実費で配分する。これにより税関への負担を軽減し、HFC許可
システムの基金を確保する
・使い捨てシリンダーの使用を禁止するために、再充てん不可シリンダーの禁止へ
改訂する
・年間100トン(CO2換算)以下のHFC生産者または輸入者の免除事項の廃止
・税関の強化
・F-ガス規制による報告データと税関のデータとの突合せシステムの構築
・HFC不法貿易の調査のために資源を投入
・規制違反に対する罰則の強化
・認知度の向上と税関と環境省との効果的な対話の実施
・低GWP高効率な冷凍空調機器の開発促進
・HFCの蒸留再生を促進してHFCの不法流入に対する需要を減らす
レポート:Doors wide open: Europe’s flourishing illegal trade in HFCs
https://eia-international.org/wp-content/uploads/EIA-report-Doors-wide-open.pdf
〔出典:RAC MAY 2019〕
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