資源エネルギー庁長官賞
ダイキン工業株式会社

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No.662 2019年3月

(省エネ事例部門/業務分野)
「中規模オフィスビルの更新による普及型ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)の実現」

ダイキン工業株式会社



写真:受賞時の様子



1. 背景と経緯

2015年12月のパリ協定を受けて、我が国では2030年には2013年度比CO2排出量26%削減が義務付けられている。そのため、建築物でも今後益々省エネルギー化、さらにはZEB化が求められる。また、我国の建物は、5000m2以下の中小規模ビルが大半(件数では95%、面積では60%を占める)であるため、ZEBを広く実現するためには中小規模ビルでのZEBが必須となる。中でも近年は新築20%に対して更新は80%と、「中小規模ビル」、「更新」、かつ「普及型」がキーワードとなると考えている。

そこで、本取組みでは、中小オフィスビルを対象とした普及型のZEBを目指し、以下で紹介する3つの手法を組み合わせることでZEB Ready※1)となる計画とした。



図-1:建物外観写真と建物概要



2.主な実施内容(省エネ取組み内容)
今回、実施の対象としたビルは 1997年9月に建てられた2620㎡の中規模ビルである。入居者はダイキン工業ならびに関係会社であり、WEBPRO(エネルギー消費性能計算プログラム〈非住宅版〉)※2)の試算による一次エネルギー消費量は、既に発売されている照明、空調、換気機器による更新のみで基準値と比較して55%削減できるZEB Readyの設計とした。



図-2:試算結果



省エネの取り組みで実施した主な 3 つの技術:
(1) 潜熱顕熱分離空調システム
本物件では温度と湿度を分離し、それぞれを高効率な機器で個別制御することで省エネルギーと快適性の両立の実現を目指した。潜熱顕熱分離空調は、湿度をコントロールする調湿外気処理機『DESICA』と温度をコントロールする高顕熱ビル用マルチエアコンで構成される。『DESICA』が湿度の処理をすることで、ビル用マルチエアコンは顕熱処理に特化でき、冷房時は蒸発温度を高く制御することで、エネルギー効率を大幅に上げることが可能になる。さらに『DESICA』のCO2台数制御により更なる省エネを目指した。



図-3:DESICAシステム





図-4:低負荷時の効率を大幅に改善する
ビル用マルチエアコンの負荷率と効率の関係



(2) 空調・換気・照明の一元管理システム
ZEBを実現するために、一つのコントローラーで空調、換気に加え、照明も制御できる低コストなシステムを採用した。このシステムにより、管理者不在の中小規模ビルにおいても機器のスケジュール管理、消し忘れ防止、予熱、予冷運転など、きめ細かい管理ができるようになり、省コスト、省スペースで大幅な省エネを実現している。また、日本では事例が少ない国際規格のDALI※3)制御を用いた照明制御により、一灯一灯の照度管理で省エネを実現した。


図-5:空調・換気・照明を一括管理するシステム


(3) 既設空調機運転データ分析による最適空調機の選定
ZEBロードマップフォローアップ委員会が公表しているとりまとめ(案)※4)では、既存ビルは利用用途の変更やLED、PCなどの省エネ化による発熱量の削減にもかかわらず、過去と同容量の空調システムに更新され非効率な運転となっているため、対策が必要であると指摘されている。

そこで、当社は空調機の運転状態を遠隔監視システムで計測し、更新前の状態と比較しながら機器更新を実施した。外気温度が高くなっても空調負荷は約130W/m2以下となっており、更新前の204W/m2を下回った。検証後に、内部発熱、換気負荷の条件を見直し、空調機の選定を行った。



図-6:更新前の空調機の運転状態




図-7:空調機の最適容量選定結果


以上の3つの技術により一次エネルギー消費量は基準値から55%削減できる見込みとした。

3.エネルギー削減実績
前述の取組みに加え、更新ではあまり事例のないNearly ZEB※5)を目指し、ZEBモニター導入による省エネ意識の向上、二重窓の設置、太陽光発電システムの導入を行った。その結果、図-8に示すように各月、確実に消費電力量が削減でき、1年間では基準値と比べ 67%の削減を実現した。

次に、一次エネルギー消費量の内訳を図-9に示す。ZEBの評価ではコンセント消費量が含まれないため、基準値(1267MJ/㎡年)においては、空調(69%)、照明(28%)で97%を占めるビルとなっていた。

当初の設計値は、空調は30%、照明11%まで削減でき、太陽光発電分を加味すると、基準値に比べ62%削減と試算していた。

一年間計測した結果、空調、照明ともに設計値に比べ実績値が下回ることができた。特に空調は26%まで削減できており、WEBPROでは評価されない弊社のビル用マルチエアコンの低負荷時における効率改善のおかげであると分析している。


図-8:一次エネルギー消費量推移

    


図-9:一次エネルギー消費量内訳


4.まとめ
中小規模ビルではエネルギー管理者はもちろん、常駐管理者もいないため、機器導入後は省エネ活動がされていないことが多く見受けられる。今回紹介した本手法では、空調、換気だけでなく、照明までを一つのコントローラーで一元管理できることにより、エネルギー管理者が常駐することなく省エネを実現できる。

また、従来から課題となっていた空調機の容量選定についても運転データを活用することで実際の使われ方に応じた最適選定手法を開発した。さらに、更新後も運転データを遠隔で計測することで運転状態を常に監視した。それにより、改善を遠隔から実施することで運用においても更なる省エネを実現した。

建物外皮の改修に手をつけなくてもZEB Readyとなる本手法は、省コストで汎用的なシステムとなっているため、中小規模ビルへの本格的な普及が可能となると考えている。

今後は、ここで紹介した事例を元に、国から認定を受けたZEBプランナー※6)として、ZEBの実現に向けた計画指針を策定し、国内の新規および更新物件への提案と普及を進め、グローバルでの展開も検討していく。

※1) 一般的な建物(リファレンスビル)と比較してエネルギー消費量が 50%以下
        のビル。

※2) 国立研究開発法人 建築研究所が提供している建築物省エネ法に基づく一次
        エネルギー消費量の計算プログラム

※3) DALI は、Digital Addressable Lighting Interface の略称で、汎用性と拡張性
        を併せ持つ、照明制御の分野における国際標準の通信規格。異なる企業の製品
        とも双方向に通信・制御ができ、調光機能を活用した高レベルな照明制御も
        可能。

※4) 経済産業省資源エネルギー庁の組織であるZEBロードマップフォローアップ
        委員会が2015年に公表しているとりまとめ(案)

※5) 一般的な建物(リファレンスビル)と比較してエネルギー消費量が 75%以下
        のビル。

※6) 2017 年度に新設された ZEB 化の実現に向けた相談窓口を有し、業務支援
      (建築設計、設備設計、設計施工、省エネ設計、コンサルティング等)を行い、
        その活動を公表する企業等。


以上
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