第13回エレクトロヒートシンポジウム参加報告
No.660 2018年11月
11月7日に大田区産業プラザPioにて開催されました第13回エレクトロヒートシンポジウムに出席し、下記の3講演、3技術発表を聴講しましたので、概略報告いたします。エレクトロヒートシンポジウムは、(一社)日本エレクトロヒートセンターが主催、経済産業省・環境省等が後援のシンポジウムで、電気を利用した高度な加熱/冷却技術(エレクトロヒート技術)を「ものづくりの未来」に繋げることを目的としている。
講演会場は3-400人程度が着席できる大きなスペースを使用し、基調講演、特別講演等はほぼ満席となる程の盛況であった。あわせて48の企業、大学、団体等が1~3小間程度のブースを設けてパネル、実機展示等を行っていた。
講演の様子
(テーマ)エレクトロヒートが拓く生産革新と省エネ・低炭素社会
(1)基調講演1 「産業電化を進める上での技術的課題の抽出」梅北栄一 氏
経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 エネルギー・環境イノベーション
戦略室長
2016年11月に発効したパリ協定対応で発足した戦略室。我が国の地球温暖化対策計画は、2030年度において温室効果ガスの排出を2013年度比26.0%減とする目標を立てているが、更に長期目標として「全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みのもと、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら」2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すための取組み、および、ドイツ、フランス、カナダ、アメリカ等各国の状況とあわせて紹介があった。
特に、製造業全体における電化比率は2割程度であることから、この比率の倍増以上を目指すため、乾燥・溶融等、現状「化石燃料利用比率」が高い分野での電化技術開発をNEDO・産総研とともに取り組んでいること、また、産業界のニーズを最大限取り入れるべく、「産業電化研究会」を立上げたので、これらのニーズ抽出型課題の設定、新技術先導研究プログラム(NEDO)への協力依頼があった。
(2)基調講演2
「電気事業の過去・現在・未来 Utility3.0への転換に向けて」岡本浩 氏
東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長
Utility3.0とは、1.0が1882年エジソンにより始まった電気事業、2.0は数年前の発送電分離による自由化による発電、小売の競争の時代であるとの定義に続く、「分散化・脱炭素化・人口減少・デジタル化による他事業との連携・融合」のことを指している。自由化による競争、デジタル化による「もの」の販売から「こと」(サービス提供)への変化等に加えて、EVと小型で高性能な蓄電池の普及等による分散化(電力産業と自動車産業の融合)等を総合してUtility3.0の時代が迫ってきているとの説明があった。
その上での脱炭素化については、現状最終エネルギー消費の約3割が電力、残りの7割が非電力であるが、2050年に向けた低炭素化へのステップとして、非電力分野の排出量を1/4に(運輸は航空・海運以外100%電化で9割削減、産業は、直接加熱以外100%電化でほぼ半減)すると、最終排出量は半減、電化率は7割となる(需要の電化)。同時に電力のノンカーボン化として現在8割以上を占める化石燃料比率を35%まで落とすことにより、2050年度の我が国CO2総排出量は2013年度比72%減が実現できるという試算であった。
その中で、脱炭素化に向けた送配電事業のポイントは、効率の見える化、運用の最適化、省エネルギー計測と制御の容易さ等であり、これを電気事業のデジタルトランスフォーメーションという言葉で説明をしていた。
(3)特別講演
「キリンビールの環境への取り組み~低炭素社会実現に向けて~」吉川創祐 氏
キリンビール株式会社 生産本部 技術部 生産技術開発担当 主務
キリングループとしてのGHG(温室効果ガス)削減の概要の説明。キリングループとして直接関与できる部分をScope1&2とし、輸送、部品製造等における部分をScope3として、その両方を2015年から2030年の16年間で3割減を目指している。
うち、Scope1&2での2015年現在、GHG排出量は20万トンであるが、1990年時点では60万トンであり、重油から天然ガスへ、高効率ボイラの導入等で、過去25年間で7割削減してきているが、この5年間程度は中々削減ができていない中で、麦汁煮沸工程における排蒸気改修や冷凍システム廃熱のヒートポンプ利用等年間1億円を投資、エネルギー使用量を3割減、15億円のコスト削減を目指している。
(4)技術発表総論「エレクトロヒートの有用性と各加熱技術の特徴」青木美貴 氏
日本エレクトロヒートセンター 普及広報委員長(東京電力エナジーパートナー㈱)
生産プロセスにおける、熱を発生させる電気加熱(抵抗加熱、アーク・プラズマ加熱、誘導加熱、高周波誘電・マイクロ波加熱、赤外・遠赤外加熱、電子ビーム加熱・レーザ加熱等の6種類)と熱を再利用するヒートポンプに分けて、それぞれの特徴、温度範囲、付加価値、作業性の向上等について、総論としての紹介であった。
(5)技術発表1「ヒートポンプを用いた工場排熱活用事例~食品や医薬品工場を中心に~」深澤篤志 氏
日本電技株式会社 事業本部 事業推進部 産業ソリューション推進室 室長代理
同社は昭和34年創業のエンジニアリング会社。7年前より産業HP(加温、乾燥)の事業を手掛けており、同社の得意事業であるFEMS(Factory Energy Management System)とあわせて事業を拡大している。
食品業界の例として、「だし」の製造ラインの洗浄の温排水利用による64%のエネルギー削減や、飲料メーカーの加温、冷却の繰り返し工程における加熱槽、冷却槽の間にヒートポンプを設置し、77%のエネルギーを削減した等の紹介があった。
医薬品業界では5割減の実績があるなどの紹介もあり、機械としては神戸製鋼所のものが紹介されていたが、ブースでお話を聞くと、前川、重工、東芝等様々なメーカーの採用事例も多いとのことであり、前回HVACでの講演に続き、今後も当工業会主催のイベントなどでの講演等をお願いた。
(6)技術発表2「熱交換器を用いた工場排熱活用事例」岩澤賢治 氏
MDI株式会社 代表取締役
同社は、冷却塔の汚れ対策や、コンビニ向けカット野菜工場での低温排水汚れへの対応、またリネン工場の湯気熱回収、ボイラー給水等、まさに現場の課題に立脚した提案で、業績を拡大している会社である。
また、冷蔵倉庫兼事務所での導入事例では、冬は1階の冷却と2階の暖房でゼロエミッションを実現し、夏は地中熱に逃がした例等の紹介もあり、「常温以外の水/空気を捨てるのはお金を捨てているのと同じ!」とのコンセプトで冷熱分野のニッチかつオンリーワン企業を目指していると感じた。
各ブースの様子
以上
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