「私の海外駐在記~ノルウェー編~」 日冷工 坪田常務理事
No.650 2017年4月
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「ノルウェー」の思い出
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「ノルウェー」の思い出
○着任、そして3年余りの在勤
小生が着任した1991年6月中旬、ヘルシンキ経由でノルウェーの首都オスロに降り立ちました。ピーンと張り詰めた空気、どんよりした曇り空、まるで冬の日本海側のような第一印象でした。(写真1)
写真1:上空から見たオスロの街
そんなノルウェーの日本大使館で3年余り働き、実際に生活してみると、美しい自然とそこに暮らす純朴な人々、第一印象とは全く違っていました。
すでに四半世紀近く前のことなので、思い違いや、記憶が薄れてきているところがあるかもしれませんが、駐在していた三年間を振り返ってみたいと思います。
○遠くて、近い国、ノルウェー
まず、「ノルウェー」と聞くと、皆様は何を思い出されるでしょうか?
思いつくまま順不同であげてみると。。。。北欧、フィヨルド、王国、白夜(極夜または黒夜)、オーロラ、バイキング、北海油田、サーモン、高物価、高負担・高福祉、ノーベル平和賞、極寒の雪国、歩くスキー、スキー・ジャンプ、画家ムンクの「叫び」、音楽家グリーグ、長身・金髪、などなど。。。。
写真2:当時の住宅
地図をご覧いただくとすぐわかるのは、南北に長く山がちだということです。お隣はスウェーデン、フィンランド。。。そして最北端でロシアと100kmほど国境を接しています。国土の総面積は日本とほぼ同じ38万㎢。
現在の総人口は、日本の約20分の1の511万人。小生が在職していた1990年代前半は約430万人ほどでしたから、この25年余りの間に80万人も増加していますが、これは移民や難民の受け入れによるものではないかと推察されます。
国内で南にある首都オスロの北緯は60度付近ですが、これはカムチャツカ半島のつけ根とほぼ同緯度。ただし、メキシコ湾流の影響で、高緯度の割には暖かく、オスロの気候は北海道とほぼ同じと考えて良いと思います。冬でも積雪が多いわけではなく、1994年のリレハンメルオリンピック時に雪が降って安心したのを覚えています。(写真3)
写真3:ホルメンコーレンのジャンプ台
寒い上に山がちの国土ということで農業生産力は過去から低く、第一次世界大戦当時までは、世界でも最も貧しい国の一つだったと言われています。9世紀から11世紀頃、遠くイタリアやフランスまで遠征したバイキングを生み出し、第二次世界大戦以前にはアメリカに多く移民した背景です。今でも約400万人のノルウェー移民とその子孫がアメリカの中西部を中心に生活していると言われています。
○北海油田・ガス田のこと
こうした貧しい経済環境を一変させたのは、1969年に埋蔵が確認され、71年から生産が開始された北海油田・ガス田でした。ちなみに、2011年の原油生産量は、170万バレル/日、天然ガスは1,013億立方メートル/年で、石油・天然ガスがGDPに占める割合は23%、輸出に占める割合は67%あります。
開発・生産は、国が3分2の株式を保有する「スタットオイル社」を中心に行われていますが、現在開発の中心は、北海からノルウェー海、バレンツ海に北上しつつあります。日本からも出光興産やアラビア石油などが進出し、子会社を作って探鉱活動、鉱区獲得し、原油・天然ガスを生産しており、スワップ取引により準自主開発原油の供給源多角化・安定供給に貢献しています。
○EUとの関係
現在、ノルウェーはEUに加盟していません。過去2回、国民投票でそれほど大きな差があったわけではありませんが、EUに加盟しない選択をしています。(1972年、1994年)
ノルウェーがEUに加盟しない大きな理由は、石油・天然ガスや、水産資源が豊富にあり、これらの資源管理についてEUのコントロールを受けることになることと、様々なアイデンティティが損なわれる危険性があると考える国民が多いことが挙げられます。
資源国としての強み、この方針は今後もしばらく揺るぎそうにありません。
○ノルウェー人とノルウェー語
北方ゲルマン人を先祖とするノルウェー人の外見的特徴は、長身で金髪の人が多いことですが、自然を愛し、スポーツ好きとの印象を持ちました。夏はよく走り、冬は歩くスキーをする姿をよく見ました。したがって、歳をとってもあまり太った人がいません。一般的に性格は穏やか、清潔好きで、時間や約束には厳格・・・ということで、3年の在勤中不愉快に感じたことは一度もありませんでした。(写真4)
写真4:ノルウェーの役人達と訪れたロフォーテン諸島
食事は全般的に質素でした。やや硬めの食パンにヤギのチーズとハムを挟んだもので朝食や昼食という人が多かったように思います。夕食には、肉類も食べますが、北方で生活する少数民族サーミ人達が放牧しているトナカイもよく食べていました。このほか、季節によってはクジラ肉も普通にスーパーで売られていて、日本と同じように魚をよく食べ、タラ、オヒョウ、サーモン、サバなどもポピュラーでした。サバは元々獲れるとすぐに捨てていたものを、日本の商社が大量に買い付けて輸出するようになって、その美味しさに気づき食べるようになりました。
ノルウェー語はドイツ語の亜流かと思います。スウェーデン、デンマーク、アイスランドの言葉も一種の方言と言っていいほど近く、いくつかの単語を除いては、あまり意識せずに会話して意思疎通できるようでした。フィンランドだけは、アジア系のフン族の末裔。。。。ということで、我々日本と同じようにウラルアルタイ語系の言葉で、いまでも時々蒙古斑のある赤ちゃんが生まれてくると聞いたことがあります。
ノルウェー語習得は、何度トライしても挫折しましたが、そこは前にも書いたように親戚がアメリカにいる人達。ほとんどの人が流暢な英語を話せるので大変助かりました。
○高負担・高物価・高福祉社会
小生が在勤していた1991から1994年当時、VAT(付加価値税)はすでに23%ありました(現在25%)。GDPに占める税収比率は40.5%と世界で最も税金が高い国の一つです。それらの税金によって、小中学校10年間の教育費は無料、医療費も無料です。手厚い失業保険と、老後のケアなど、高福祉社会の一つの成功例と見ることもできるのかと思います。
物価は非常に高く、特に食べ物は多くを輸入に頼っているのと、この付加価値税のため普通に昼ご飯を食べると、高物価を実感する毎日でした。(写真5)
写真5:ひとつ1000円以上するオープンサンド
○捕鯨のこと
ノルウェーは、日本と同じようにクジラ肉を食べる食文化がありました。これは昔この国が非常に貧しかったからではないかと想像します。これは、昔の日本と共通するものかもしれません。ですから、捕鯨の季節になると、オスロの魚屋さんやスーパーには鯨肉が並び、駐在していた日本人達もその恩恵にあずかりました。
獲るのは、近海のミンククジラという比較的小型の鯨でしたが、いまや北海油田の採掘によって、世界で最も裕福な国の一つとなり、第二次世界大戦後経済発展を遂げやはり裕福となった日本と同じように、反捕鯨国から捕鯨を止めるように強い圧力がかかっている状況にありました。それに対して、ノルウェーは鯨肉を食べるのは昔からの正当な食文化であること、また資源管理をする上でも、例えば小型鯨が多くなると大型鯨が減ってしまうという生態系の保全のためにも、ある程度小型鯨捕獲する必要があるとして、屈せず捕鯨を今でも継続しています。
○オーロラのこと
ノルウェーに着任したら、一度はオーロラを見たいものだと思っていました。そんな折、9月下旬にロフォーテン諸島の対岸にあるソルトランド(黒い土の意味)という街に出張する機会がありました。ここは北緯66度33分以北の北極圏にある街でしたが、さすがにまだ真冬の寒さではなく、オーロラは見えないだろうと思っていたのですが、なんと驚いたことに9月下旬にもオーロラを見ることができました。(写真6)
写真6:オーロラが浮ぶ夜景
オーロラが少しでも見やすいところを探して歩いていくと、いつの間にか海岸に出てしまいました。そこで見た光景は、たぶん一生忘れられません。信じられないことに、夜空のあちこちに淡い光のオーロラが雲のようにたなびいていました。雲のようにたなびいているオーロラは、時々活動が活発になってハッキリした光を発し、激しく動くのでした。
日本であれば周りには大勢のギャラリーがいるに違いないと思いますが、真っ暗な海岸に、自分一人しかいないのにふっと気づき、しかも上空のオーロラが自分に向かってどんどん降りてきているように見え、怖くなって背筋がゾクゾクしたのを覚えています。夜空で怪しく舞っているオーロラを見ると、あまりの美しさと神秘さ、自然の雄大さを実感することができ、その後の人生観が変わったようにも思えます。
ロフォーテン諸島のこと
ノルウェーは、首都オスロにも自然が多く残り、美しい場所が色々なところにあります。オスロからほど近いところでは、ソグネ・フィヨルドやガイランゲル・フィヨルドがあり、西海岸にはベルゲンというハンザ同盟の美しい街があります。しかし、 それらを超越して美しい、そして荒々しい自然が残っているのは北部のロフォーテン諸島ではないかと思います。(写真7)
写真7:ロフォーテン諸島
このロフォーテン諸島の中に、映画化され話題となった「アナと雪の女王」の舞台とも言われる「レイネ(Reine)」という小さな町がありました。(図1)この町は、世界で最も美しい12の町にも選ばれているそうです。
ノルウェーは直行便がなく、少し行きにくい国ですが、一度行かれると何度も行ってみたくなる自然豊かな美しい国です。皆様も是非一度。絶対に後悔しないことを保証します。
図1:レイネのあるロフォーテン諸島